大人のためのブックリスト7(令和6年度発行)
一般成人を対象とした、大森図書館の職員・スタッフがおすすめする本のブックリストです。
テーマは「夜も眠れなくなる怖い本、集めました」。図書館員お勧めのアートにまつわる本を読んで、様々な芸術に触れた気分を味わってみませんか?
※タイトルまたは巻号をクリックするとその本の詳細画面を見ることができます。
千葉の怖い話 亡霊たちの集い 牛抱 せん夏/著 TOブックス 記号:388.1ウ |
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延々とぬけ出す事のできないうぐいすライン。得体の知れない何かが潜む小湊鉄道の線路。普段は郷土コーナーに並んでいるこの本に載っている話は、どれも作者が実際に見聞きしたという千葉で起こった不思議な体験談です。身近な怖い話ほど背筋がぞくりとしませんか? ぜひお手に取って、奇妙な世界の一部を覗いてみてはいかがでしょうか。 |
怖くて眠れなくなる天文学 縣 秀彦/著 PHPエディターズ・グループ 記号:440.4ア |
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宇宙は、時間も空間もヒトとは単位のスケールが違います。美しい流星群や皆既日食に天体の不思議を感じますが、天文学者の視点からは、この宇宙は謎と恐怖に満ちているようです。昨年から今年、北海道でもオーロラが見られたという現象。これはとても怖いことです。太陽活動が活発になり、フレア爆発により太陽から大量の電磁波や放射線が届き、GPSなどに障害が起こる恐れもあります。紫外線も人体には脅威です。 おもしろいなと思った表現で、「天文学で観測できる現象は過去の姿」とありました。空を見上げた時、今、目にしているものは過去、という日常とは違う感覚をどうぞお試しください。 |
宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ フィリップ・プレイト/著 斉藤 隆央/訳 日本放送出版協会 記号:440.4プ |
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このタイトルからノストラダムスの大予言「恐怖の大王が空から降ってくる」を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、この本で書かれているのは科学的根拠に基づいた「いつか」必ず起こること。小惑星の衝突、太陽面爆発、ブラックホールの接近、エイリアンの襲来、太陽の死、宇宙の死など、圧倒的なそして避けようのない宇宙の恐怖により地球や人類が滅亡する様子と取り得る対策が分かりやすい文章で書かれています。 その場に自分がいると考えると怖い話ですが、想像すらできない遠い先の話、未来の超人類達が生き延びる術を見いだすことを期待して、最新の天文学ノンフィクションを楽しく読んでください。 |
許されようとは思いません 芦沢 央/著 新潮社 記号:Fアシ |
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ご紹介するのは、人間の心の闇をテーマにし、驚きの展開と結末が味わえる5編を収録した芦沢央さんの短編集です。 5編とも、どこにでもありそうな、誰にでも起こりそうな、そんな身近な恐怖が題材となっており、登場人物の心理描写も巧みで、いつの間にかその世界に引きずりこまれます。 表題作「許されようとは思いません」は閉鎖的な田舎の話。まだこんな場所がありそうだと震えますが、ファンタジーの要素も入ったほっとするような最後になっていて、他の4編の後味の悪さが少しだけ和らぎ、救われます。 幽霊やお化けも怖いですが、やっぱり人間が一番恐ろしい……。 |
准教授・高槻彰良の推察(1) 澤村 御影/著 KADOKAWA 記号:文庫Fサワ |
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嘘を聞き分けられる耳を持つ故に、孤独に生きてきた大学生・深町尚哉は、自身の幼少期に経験した不思議なお祭りをレポートに書いて提出したのをきっかけに、民俗学の准教授・高槻彰良に気に入られ、何故か彼が収集している怪談や都市伝説にまつわる怪事件調査の助手をすることになり……。 果たして二人は無事に次々と舞い込む怪事件を解決できるのか。そして、二人が調査する怪事件は、人間が作り出した紛い物なのか、それとも……? コックリさん、異世界へ行く方法などの怪談や都市伝説を追い求め、民俗学絡みになるとエンジン全開で歯止めが利かなくなる高槻に振り回されつつ、怪事件の数々を度々怖い経験を味わいながら解決していく「民俗学ミステリ」を読みたい方に! |
夜市 恒川 光太郎/著 KADOKAWA 記号:Fツネ/th> |
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本作は「第12回日本ホラー小説大賞」受賞作ですが、ホラーというより、ファンタジーに近い作品です。 妖怪たちが様々な品物を売る不思議な「夜市」。ここでは望みのものが何でも手に入ります。小学生の頃、「夜市」に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引きかえに「野球の才能」を手に入れます。その後、野球部のヒーローとして成長した裕司でしたが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきました。そして今夜、弟を買いもどすため裕司は再び「夜市」を訪れます。 何とも幻想的な美しさ。しかし、読み進んでいくうちに感じる切なさと悲しみ。一気に世界観に引き込まれる作品です。 「夜市」には表題作の「夜市」と書き下ろしの「風の古道」が収録されています。2編とも日常から離れた不思議な世界に浸りたい人にはオススメの1冊です。 |
護られなかった者たちへ(宮城県警シリーズ) 中山 七里/著 NHK出版 記号:Fナカ |
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東日本大震災後の仙台市で、連続殺人事件が発生。警察が事件の真相を追う中で、貧困に苦しむ人々の現実と社会保障制度の問題が浮き彫りになっていくミステリー小説です。 善人と評された被害者の死因は“餓死”。ガムテープで固定されたまま放置され、死が確実に迫る恐怖の中、なす術もなく息絶えた被害者の精神的苦痛は計り知れません。そして一方、貧困でろくに食事もできず「香りのついているティッシュは噛むと甘みが出るんだ」と言って口に運ぶのをやめない老婆。その後彼女を待ち受ける孤独と恐怖は想像を絶します。 いったい人の尊厳とは何か? 否応なく体力・思考力を奪われる餓死の恐怖とともに、生活保護についても深く考えさせられる1冊です。 |
眠る魚 坂東 眞砂子/著 集英社 記号:Fバン |
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作者は、2014年1月10日の連載分を最後に同年1月24日に舌癌で逝去しました。東日本大震災を題材とした物語は、未完であるが故に、本を手にした読者自らが物語を再構築しなければなりません。アオイロコ、イルナミテイ、光る死体。作者と同じ病で入院する主人公が、不気味なキーワードで、物語を紡ぎだすその時に、「想定外」「思考停止」により、突然物語は、沈黙の暗闇に吸い込まれます。目を離すことが出来ない恐怖を、作者が命を振り絞って読者に示しはじめた時に。 ―「死にたくない」の言葉と共に― ※当館では、同作者の作品「くちぬい」も用意して、皆様をお待ちしています。 |
図書館奇譚 村上 春樹/著 カット・メンシック/イラストレーション 新潮社 記号:Fムラ |
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「怖い話を書くことが好きだ」という村上春樹さんの短編小説と、ドイツのイラストレーター、カットメンシックさんの印象的なイラストがコラボしたアートブックです。大人の絵本といった感じで、なんとなく村上春樹作品は難しいのでは、と想像していらっしゃる方にもおすすめです。村上春樹作品は、図書館が舞台になることが多いのですが、こちらもそのうちの1つ。図書館の地下に不思議な世界が広がっている物語で、1ページ目からその世界に引き込まれます。この物語に込められたメッセージや、果たして印西市立図書館にも地下世界が広がっているのか、などいろいろなことを想像しながら、秋の夜長の読書をお楽しみください。 |
悪魔の手毬唄 横溝 正史/著 角川書店 記号:文庫Fヨコ |
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時は昭和30年夏。探偵金田一耕助が岡山の閑村へ静養に訪れるところから物語が始まります。出だしは田舎の風景、そこに暮らす人々との出会いと穏やかな感じがあるのですが、ある日、峠で老婆と出会う場面から雰囲気が一転します。陽から陰へ一瞬で転じる様は小説で10行程の描写ですが、一番恐ろしさを感じる場面です。これをきっかけに手毬唄になぞられた連続殺人事件が幕を開けます。どの事件にも色彩感、芸術性があり、それが残虐な描写とのギャップでより恐怖が増大します。本作は映画化もされており、一度は目にした方もいらっしゃると思います。「観てから読むか? 読んでから観るか?」 久しぶりに古典ミステリーにふれてみるのはいかがでしょうか!? |
羆嵐 吉村 昭/著 新潮社 記号:Fヨシ |
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大正4年に北海道苫前村の開拓地で発生した、日本史上最悪の熊害と評される三毛別羆事件。本作はこの事件を題材にしたドキュメンタリー長編です。厳しい大自然の中で貧しくも懸命に開拓に励んでいた村民に、突如として襲いかかる「穴持たず」の巨大羆。その異常な執念と凶暴性で人々のささやかな暮らしを根こそぎ破壊し尽くす様は凄惨で、思わず本を閉じたくなる衝動に駆られるかもしれません。しかし真の恐怖は、濃い闇が羆の体を覆い隠す深夜の静寂の中、恐怖の実態の不在に怯え、追い詰められた人々の緊張が極限まで高まっていく場面にこそ潜んでいます。本作を通じて密度の濃い恐怖をあなたもぜひ体験してみて下さい。 |
可愛い黒い幽霊 宮沢賢治怪異小品集 宮沢 賢治/著 東 雅夫/編 平凡社 記号:918.6ブ |
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宮沢賢治の作品といえば「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「どんぐりと山猫」といったリリカルで繊細、ユーモラスな作品を思い浮かべる方が多いと思います。一方でこれらの作品にも深く触れると賢治の仄暗い死生観や倫理観が感じとれます。そんな賢治の作品の中から“怪異小品”を選び出して集めたアンソロジーが本作。「こわい」にかけては名を馳せる編集者・東雅夫が賢治の童話や詩から“とりわけ怪異や心霊、幻覚の気配が濃厚”なものをチョイスしたとのこと。読むうちに賢治独特のオノマトペや言葉遣いに翻弄されてふいにぞくりと怖さが迫ってきます。従来のイメージとはちょっと違った宮沢賢治の作品にぜひ触れてみてください。 |
そして誰もいなくなった アガサ・クリスティー/著 清水 俊二/訳 早川書房 記号:文庫933ク |
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デヴォン州の海岸沖にあるインディアン島という孤島に、オーエンと名乗る人物から招待され集まった8人。執事と料理人兼家政婦の夫婦が出迎えた邸宅の客室には古い童謡の歌詞が飾られ、食卓には童謡に登場する10体のインディアン人形。オーエン不在のまま食事が進み、食後に流れてきたのは、その場にいる10人の罪を告発するレコードの声。そして童謡の歌詞の通りに一人また一人といなくなっていく……。 今更紹介するまでもない不朽の名作であるこの作品ですが、これほど恐怖感を味わいながらも、その面白さに興奮するという経験はなかなか得られないものではないかと思います。特に最後のシーンで受けたゾッとする静かな衝撃は忘れることができません。 |
しにがみさん 柳家小三治・落語「死神」より 野村 たかあき/作・絵 教育画劇 記号:Eノ |
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落語で有名な死神。最近は歌手の米津玄師さんのMVで人気になりましたね。 こちらは落語の世界を黒々とした版画で縁取り、更に美しく彩色した絵本となります。恐ろしさを受け止められる大人にこそお薦めしたい絵本です。 人の欲望には果てがない。ごく普通の人間でも、一度心の留金が外れてしまうと転がり落ちてしまう。初めは家族を養うためだった主人公が、やがて富を得るために死神の秘密を悪用してしまうように。 しかし命には果てがあるのです。そして過ぎた欲望には代償も。死神が見せる蠟燭の灯りは、そんな人の業を教えてくれるようです。 クライマックスは絵本ならではの圧巻の美しさ。改めて「死神」の世界をご堪能下さい。 |