大人のためのブックリスト5(令和4年度発行)

一般成人を対象とした、大森図書館の職員・スタッフがおすすめする本のブックリストです。
テーマは「映画化された本、集めました」。図書館員お勧めの映像化された原作の本を読んで、空想の世界に浸ってみませんか?

※タイトルまたは巻号をクリックするとその本の詳細画面を見ることができます。

学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話
坪田 信貴/著 KADOKAWA 記号:376.8ツ
 人目を引く金髪のギャルが表紙の、この本を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか?
 学習法の棚に並んでいる本ですが、この本で軸になっているのは主人公のさやかちゃんと周りの人々が織りなす「物語」です。周りの大人に反発ばかりして学校の勉強からは、落ちこぼれてしまったさやかちゃん。信頼できる人達に支えられて、当初は笑い話でしかなかった慶応合格という目標にむかって走り出します。
 実話だけあって登場人物が生き生きと描かれており、さわやかな読後感をもたらしてくれる一冊です。
 映画では有村架純さんがさやかちゃんを演じられていました。結末がわかっていても、きっとラストでは思わず手に汗を握ってしまうはずですよ!
シルミド 「実尾島事件」の真実
城内 康伸/著 宝島社 記号:398シ
 戦後の米ソ対立により分断された朝鮮半島。南北の緊張が高まり、韓国では対北朝鮮特殊部隊が結成される。北の指導者金日成暗殺を至上命題に揚げ、死者続出の苛酷な訓練が行われたシルミド(実尾島)。しかし暗殺決行の命下らぬまま、政治的背景の変化により特殊部隊は不都合な存在として抹消されることとなる。絶望的な未来を知った工作員たちの起こしたシルミド事件とは!そしてその後彼らはどうなったのか。2003年韓国動員記録を塗り替えた映画「シルミド」により、事件は30年の時を経て広く知られるに至ったが、その全貌は今も不明瞭なままである。時代や政治に翻弄された男たちと政府が封印した凄惨な史実を、圧巻の映画とともにお勧めしたい。
綱渡りの男
モーディカイ・ガースティン/作 川本 三郎/訳 小峰書店 記号:726ガ
 これは実話です。1974年8月7日ニューヨークのふたつの超高層ビルの間にロープを渡して、綱渡りをした大道芸人の男性の話です。危ないなんてもんじゃない、信じられない綱渡りシーンは、まず新聞記事で全世界をめぐりました。図書館員児童書担当の間では、小学校高学年から読み聞かせに使える、子どもの反応が楽しみな絵本としてひそかに有名でした。この話は2度映画化され(2008年ドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」、2015年「ザ・ウォーク」)、映画化原作として『マン・オン・ワイヤー』(2002年アメリカ刊、2009年邦訳)もあります。映画「ザ・ウォーク」と『綱渡りの男』はどちらを先に見ても、知ってから見ても圧倒されることうけあいです。
鉄道員(ぽっぽや)
浅田 次郎/著 集英社 記号:Fアサ
 主人公である鉄道員の乙松は、仕事一筋で我が子や妻の死に目にも会えず働いていました。ホテルでの再就職の話も断り、これからの人生などまるで考えていなかった時、乙松の前に一人の女の子が現れます。その子の忘れた人形を見て、死んだ娘が幽霊になって、自分の前に成長した姿を見せてくれたと確信します。一時、幸せの時を過ごした乙松は、雪が降りしきる中、仕事中に倒れて息を引き取ります。その主人公のまっすぐな生き方に感動します。また、映画の主人公を演じた高倉健が孤独な男の役にピッタリ! 映画・小説どちらを先に観ても読んでも、感動すること間違いなし。鉄道開通150周年の今年、鉄道マニア必見の小説です。
屍人荘の殺人
今村 昌弘/著 東京創元社 記号:Fイマ
 ネタバレになるので詳細はいえないのですが、読後の感想が「こんなのあり?」でした。
 本の冒頭には舞台となる紫湛荘の見取り図と登場人物の紹介があり、古典的なミステリー作品の体裁をとっています。神紅大学ミステリー愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、同じ大学の探偵少女剣﨑比留子と曰くつきの映画研究部の夏合宿に参加します。ある事情でクローズドサークル(外界との接触が断たれた状況)となってしまった状況で起きる連続殺人。どうやって殺されたのか。誰が犯人なのか。解決編の消去法推理も面白いです。映画ではキャストや設定が少し違っている部分もあるので、そちらも是非楽しんで下さい。
木曜組曲
恩田 陸/著 徳間書店 記号:Fオン
 カリスマ的女流作家、重松時子が薬物による自殺で亡くなってから4年。現場に居合わせた5人の女性たちは毎年時子を偲ぶため彼女の家に集まっていましたが、謎の女性から花束が届けられたことから、時子の死が自殺ではないのではないかという疑問が生じます。彼女は本当に自殺だったのか、それとも、ここにいる誰かに殺されたのか……その真相にせまるというミステリーです。
 こう書くと、サスペンスフルに満ちた不穏な内容のようですが、謎解きというより、5人の女性たちによるテンポ感のある会話を楽しむべき作品です
 2001年に公開された映画では、主人公の鈴木京香さんをはじめ、日本を代表する女優さんたちの競演を楽しむことができます。
青い鳥
重松 清/著 新潮社 記号:Fシゲ
 「大人は、みんな、十四歳だった。」これは映画『青い鳥』のキャッチコピーです。非常勤講師として赴任した、話すことが苦手な村内先生が生徒たちに真っ直ぐに向かい合った11月のひと月を描いた物語です。映画では村内先生を俳優の阿部寛さんが演じています。
 某テレビドラマの先生役とは打って変わり、目立たず口数は少ないけれど、そっと生徒に寄り添う先生を演じている姿は必見です。誰しも中学時代があったはず、その時はわからなかったけれど大人になった今だからわかることがあるはずです。この物語は、ほんとうに大切なこととは何かを気づかせてくれるかもしれません。
君の膵臓をたべたい
沢野 ひとし/著 集英社クリエイティブ 記号:597.5サ
 タイトルを見るとホラ―小説? と思ってしまうかもしれませんが、人間関係を必要としない静かな「僕」と病人には見えない明朗な「桜良」という同級生による青春小説です。
 僕が病院の待合室で拾い文庫だと思って読んだものは、桜良の日記でした。読んでしまったために、桜良の願いを叶える手伝いをすることになり、二人はお互いの良いところを知り仲良くなっていきますが、突然悲しい出来事が起こってしまいます。人と関わることが苦手で友だちのいなかった僕は、桜良の日記の続きを読み、人と関わることの大事さ楽しさ、命のはかなさを知り、友だちを作るために少しずつ変わっていきます。
 映画(北村匠海/小栗旬、渡辺美波)は12年後母校の教師になった「僕」が高校生時代を振り返る作りになっています。
そして、バトンは渡された
瀬尾 まいこ/著 文藝春秋 記号:Fセオ
 2019年の本屋大賞にも選ばれた瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は、血のつながらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わる優子という女の子が主人公の小説です。2021年に、永野芽郁さんが主演で映画化されました。
 現実的にはなかなかない設定だと思いますが、血のつながりだけではない本当の意味での家族の絆や、前向きに生きることの大切さ、人を思いやる気持ちの大切さが丁寧に描かれていて、読み終わったあとには、とてもあたたかな気持ちになれる一冊です。
 映画を観た方は、映画との違いを楽しめると思いますし、読みやすいので大人はもちろん、若い世代の方にもおすすめです。
盲目剣谺返し(「隠し剣秋風抄」に収録)
藤沢 周平/著 文藝春秋 記号:BFフジ
 本小説は2006年制作の日本映画『武士の一分』(松竹配給映画として歴代最高記録40億円超(当時))の原作本で、17編の短編時代小説集の最終作『盲目剣谺返し』です。毒味役で古い笠貝の毒に当たって失明した東軍流の剣士・三村新之丞は、妻の不倫が上司の一刀流の剣士・島村籐弥の嘘偽りによるものと判明し、命をかけて武士の一分(面目、名誉、対面)を立てるため、極意剣・谺返しを習得し、島村と果し合い、一撃で頸の血脈を断つ(映画では、左腕を切り、島村が後に切腹)。その後、離縁した妻との平穏な生活が戻ってくる。感動の時代小説です。
孤狼の血
柚月 裕子/著 KADOKAWA 記号:Fユズ
 「正義とは何か?」人が100人いれば、100通りの正義がある。組織も社会も同様だ。正義……、白と黒、善と悪の間には無数のグレーが在る。これらを判別する基準はいつも不確かだ。
 作者は、『日の当たる場所の正義』を「検事佐方貞人シリーズ」で描き、真逆の『日陰の場所の正義』を、本書の2人の刑事、大上省吾と日岡秀一に委ねた。舞台は昭和63年、警察と暴力団白と黒が入り混じる広島・呉。
 大上は筋の通らない正義を潰す。大上が吐き出す毒気を日岡は吸い込み、怯え苦悩して逡巡する。指先まで血の通う剥き出しの人間性の描写、広島弁による湓んばかりの体臭と熱量、ひりひりした緊迫感、密やかな息づかい。頁をめくる……どきどきして手に汗……頁をめくる……「ええっ」。
ドクトル・ジバゴ
ボリス・パステルナーク/著 新潮社 記号:B983パ
 時代はロシア革命前後の動乱期。詩人でもある医師ジバゴの波乱に満ちた人生を、2人の女性への愛を通して描いた小説です。1957年当初、革命を批判する作品であるとして発禁処分になり、ゴルバチョフ体制になってようやく解禁に。58年ノーベル文学賞を受賞するも、国内の圧力に屈して辞退します。映画は冷戦下の1965年に公開されます。雄大なロシア大雪原の風景はスペイン、フィンランドなどで撮影。テーマ音楽「ララのテーマ」はあまりにも有名です。自分らしく生きようとする者が激動の時代に流されていく様は、現代のロシア、ウクライナとリンクして胸が痛みます。